この記事は2019/06/07に書いたものです。
空想。
自分が世界を救う勇者だったら。
自分が地球を守るヒーローだったら。
授業中に乗り込んできたテロリストを自分が華麗に撃退したら。
あるいは
自分のオリジナルヒーロー。
自分のオリジナル怪獣。
自分のオリジナルロボット。
自分のオリジナル世界。
あるいはそれらが複合して大冒険が始まったりするかもしれない。
(ん?自分の過去がえぐられている気がする?ご安心ください。一番えぐられているのは私だ。)
誰もが一度はここには無い何かを想像した事があるでしょう。そして同時にこう思うはずです。
「これが現実になったら」と。
ウルトラ怪獣の中にはそういった空想が現実になった怪獣も数多く存在します。
今回紹介するのはその代表的な1体。二次元怪獣ガヴァドンです。
二次元怪獣ガヴァドン
登場したのはウルトラマン第15話「恐怖の宇宙線」。
事の発端はムシバというひでぇ渾名の少年が書いた一枚の絵。
ムシバ少年がガヴァドンと名付けたその怪獣は手抜きとても愛くるしい姿をしておりクラスメイト達からは「怪獣っぽく無い」「怖くない」「弱そう」と散々に言われてしまう。
ムシバ少年は大きく書けば怖くなるだろうと考え土管に大きくガヴァドンの絵を描いた。
そして翌日。
街中に巨大怪獣が出現。その姿はムシバ少年の描いたガヴァドンと瓜二つ。
ムシバ少年の描いた絵が怪獣として実体化してしまったのである。ムシバ少年達は実体化したガヴァドンに大喜びではしゃぐも、怪獣出現という緊急事態に科学特捜隊に出撃命令が下る。
慌ただしくなる周囲をよそに昼寝を決め込むガヴァドンだったがミサイル攻撃が刊行されると驚き逃げ惑う事しかできなかった。
ムシバ少年の訴えもありガヴァドンが無害な怪獣であると判断した科学特捜隊は攻撃を中止。防衛軍と共に包囲網を構築するがガヴァドンは夜になると姿を消した。
調査の結果、宇宙線と太陽光線が融合した物が地球に降り注ぎ、ガヴァドンの絵に作用して二次元の絵を三次元に変化させるという俺たちの悲願現象が起きていた事が判明。日の入りと共に姿を消したのは太陽光線が無くなったからであった。
一方、ムシバ少年達は寝ているだけで何もしないガヴァドンに不満を覚えガヴァドンをより怪獣らしい姿へと書き換えてしまう。
何ということをしてくれたのだ!
翌日。
書き換えられた新しい姿で再度実体化したガヴァドン。
しかし姿が変わってもガヴァドンは昼寝を決め込むだけであった。
引き続きガヴァドンを無害な怪獣と判断した科学特捜隊は攻撃せずに様子見をすることにした。
が、ガヴァドンがオフィス街のど真ん中に出現してしまった為に昼寝中のいびきや物流の滞り、怪獣がすぐそこに居る恐怖心などなどで存在するだけで日本経済に大打撃を与える事が判明してしまう。
科学特捜隊はガヴァドンの討伐を決定。それを聞いたイデは
イデ「ガヴァドンは夜はただの落書きなんですから、夜のうちに落書きを消してしまえばいいんですよ!」
という妙案を提示するも
アラシ「バカ!誇りある科特隊が落書きを消すなんて仕事ができるか!」
ムラマツキャップ「そうだ!我々は科特隊として正々堂々とガヴァドンと戦うんだ!」
と、頭の固い二人に却下されてしまう。
(ZATなら喜んで消しに行ったと思われる。というか科特隊が消さなくても清掃業者に依頼すればそれでいいのでは?それに攻撃に対して反撃せず逃げ惑うだけの相手を一方的に討伐するのは正々堂々の誇りある行動なのだろうか。)
翌朝。
実体化し、あいも変わらず昼寝を決め込むガヴァドンに科学特捜隊と防衛軍の総攻撃が開始される。
攻撃に逃げまとうガヴァドン。そんなガヴァドンの姿を前にムシバ少年達は科学特捜隊に大ブーイング。
子供達を宥めようとしたハヤタだったが足を滑らせてしまい川に転落。止むを得ずウルトラマンに変身する。
ガヴァドンと対峙するウルトラマンだったがムシバ少年達はウルトラマンに対しても「やめろー!」「帰れー!」と大ブーイング。
子供達のヒーローが子供達の敵になった瞬間である。
状況的にガヴァドンを倒せなくなったウルトラマンはガヴァドンを宇宙へ連行。
ガヴァドンが居なくなり寂しい子供達にウルトラマンは語りかける。
マン「泣くな子供達。毎年7月7日にガヴァドンに会えるようにしよう。この星空の中で。」
と子供達に配慮を見せるウルトラマンだったが
ムシバ「七夕の日が雨だったらどうすんだよ。」
マン「・・・(音もなく姿を消す)」
ムシバ少年のクリティカルな質問にウルトラマンは答える事ができないのであった。
そして、この物語のラストは大勢の子供達が地面に落書きをしているところで終了する。
ガヴァドンというオモチャを失った子供達は第2、第3のガヴァドンを生み出そうとしていたのだった。
その光景を見たムラマツキャップは気が遠くなっていくのだった。
子供達が描いた絵が実体化するという夢溢れる存在なガヴァドン。第一形態の愛くるしさは抱き枕にしたいとコアなファンには人気の怪獣でもあります。
というか私が好きな怪獣です。
ですが、彼の登場エピソードは目先の楽しみしか目にない子供達の無知と無邪気さによる無責任と身勝手を前面に押し出して皮肉った毒のある物となっています。
子供達はガヴァドンそのものに思い入れがあるのではなく自分の描いた怪獣が実体化する状況を楽しんでいるだという事がひしひしと感じ取れ、年に一度ガヴァドンに出会える様に配慮を見せたウルトラマンでしたが次の7月7日が来る頃には子供達はガヴァドンの事を忘れ去っているであろう事は想像に難くありません。ムシバ少年達にイライラしてしまう視聴者も多いでしょう。
このエピソードを担当したのは実相寺昭雄監督と佐々木守脚本のウルトラの変化球タッグで有名なお二人。私が実相寺昭雄監督の名前を知ったエピソードでもあります。実相寺監督らしい毒がありながらも印象に残るエピソードとなっているので是非とも一度ご覧ください。