この記事は2017/11/26に書いたものです。
生きる厳しさと哀しさを鮮烈に謳う
今回紹介するのは昭和第二期ウルトラシリーズ最終作。
ウルトラマンレオをご紹介です。
概要
この頃の映画ではパニック映画の金字塔と言える名作「日本沈没」やブルース・リー主演のカンフー映画が大ヒット(まぁ、執筆者は両方とも見たことないんですが。生まれてないしね)。 これにより民衆に根付いた終末思想やカンフーブームに乗るべく円谷プロが生み出したウルトラマン。 それがウルトラマンレオです。 終末思想を元にしていることもあってその展開は非常にハード。 第1話から島一つが津波で沈没したり、3話にして幼い兄妹の父親が子供の目の前で真っ二つにされるなど、容赦のない展開が続きました。 冒頭に挙げたキャッチコピーは伊達じゃないぜ! また主人公であるウルトラマンレオことおおとりゲンの生い立ちも、故郷の獅子座L77星を邪悪な宇宙人に滅ぼされ星の人々は全滅。1人で地球に逃げ延びてきたというハードなものとなっております(後に弟が生存していることが判明)。地球では良き仲間や恋人にも恵まれるのですがそれでも故郷がないという悲しみや自分が宇宙人であるという負い目など彼の孤独が前面に押し出されました。サラッと書いてますが彼は史上初のM78星雲出身ではないウルトラマンです。別の星に同じウルトラマンという名称が存在した理由は不明。 そんなレオですが、宇宙拳法の達人であり全身凶器と評されるほどの身体能力を持つのですが戦闘員ではなかったため実戦経験に乏しく、実戦を想定した訓練も受けておらずヒーローとしては未熟な存在。その為、敵に敗北する事も多かったです。そこで、一人前の戦士になるべくカンフー映画お決まりの修行を行うことになります。 その修行を課す師匠役として抜擢されたのがウルトラセブンことモロボシ・ダンです。 地球防衛の前任者ウルトラマンタロウがその任を終え、後任として再びウルトラセブンが地球へ着任していたのですが第1話にて3対1という圧倒的不利な状況へ追い込まれボコボコにされた結果、ダンはウルトラセブンへの変身能力を失ってしまうのです。その3対1の絶体絶命な状況の中で救援に現れたのがレオであり、ダンは戦えなくなってしまった自分の代わりにレオに地球防衛を託し、一人前の戦士になるように修行を課すことになるのです(M78星雲はなぜ後任を送り込まないのか)。 とはいえ、ウルトラマンが課すその修行は内容もウルトラ級であり ・金属製のブーメランを全力で投げつける ・目隠しをしたゲンにボールを全力で投げつける ・真冬の滝に連れて行き「滝を切れ」と無茶振りをする ・生身のゲンをジープで轢き殺そうとする追いかけ回す などなど、ぶっとんだ修行の数々が登場しました。特にジープ修行は特撮の話題で「ジープ」と言われたらコレ。と言えるほど特撮ファンに強いインパクトを残しました。 でもって、本来ならこういった撮影にはスタントマンが代役を務めるのが当たり前ですが、今作においては「リアリティがほしい」という監督の意向により全てゲンを演じた真夏竜さん本人が挑んでおります。 その結果、上記の滝修行のせいで肺炎を起こしかけ高熱にうなされたり、ジープにガチで轢かれかけたりと役者人生どころか人生が終わりかけたようです。 後年、この修行について真夏氏は「修行の演技が素晴らしいと多くの人に評価されたんですけど、あれは演技じゃないんですよねぇ」と、しみじみと語っておられます。 とはいえ、未熟なレオが過酷な修行によって成長していく姿はレオの成長物語に必要不可欠な物であり、実際に序盤はダンに言われるがままに修行していたゲンが徐々に自分に足りないものを考え自分で必要な修行を考えられるようになるという成長しているレオの姿が描かれました。 後年においてレオはこの時の修行を感謝しており、セブンを師として尊敬していることが描かれます(とある作品でニセウルトラセブンを全力でボコっていたのは怨念返しではない。多分)。 シリーズお決まりの防衛チームとして「MAC(マック)」が登場。 正式名称は「MonsterAttackingCrew」パソコンもハンバーガーも関係ありません。 シリーズ史上初となる宇宙に拠点を構えた防衛チームでありダンはこのMACの隊長を務めています(ウルトラシリーズにおいて宇宙ステーションは悲惨な目にあうジンクスがある・・・つまり・・・)。 ゲンもスカウトされてここに入隊することになります。 ウルトラマンだと分かったからスカウトされたというのは珍しいパターンですね。 ちなみにダンが隊長に抜擢されたのはウルトラ警備隊時代の功績を認められたかららしいのですが、ウルトラ警備隊の時のダンといえば肝心なときにはセブンに変身していて部隊にいないことが多々ある問題児ではないかと思うのですが、何が評価されたんでしょうね。 更に言うなら体調管理ができておらず体調不良のまま任務について異星人の地球侵入を許した挙句基地から脱走して消息不明になったというのが彼の最後の記録だと思うのですが、何が(以下略)。 ともあれ、MACに入隊したゲンですがダンは厳しい態度で彼に接し、ダンがゲンを特別扱いしている事が気に入らない隊員たちと確執が生まれてしまうなど非常に空気の重い部隊となっております。ここでもゲンの孤独が強調されることになります。 戦績も非常に悪く、扱いは完全にウルトラマンの前座。というかMACが敗れてしまった今、地球で奴に対抗できるのはレオしかいない。だからレオは強くならなければならない。という空気を作り出すための存在であり、後述するとある事情や隊長であるダンから「MACでは(あの怪獣には)勝てない」と言われてしまっていることから歴代防衛チーム最弱とまで言われる始末です。MACは犠牲になったんだ。ドラマの犠牲にな。 ゲンに厳しい態度を取って鬼のような修行を課したり自分の部隊であるMACを過小評価していたりと、ウルトラセブンの頃の穏やかで人類の科学を信じ、その素晴らしさを語っていたモロボシ・ダンとはまるで別人のようになってしまったダンですがこれには事情があり、元々MACの隊長にしてレオの師匠役にはとある地球人が用意される予定でした。 その隊長役をダンを演じた森次晃嗣さんにオファーしたところ、森次さんが「ウルトラシリーズではダン以外は演じない」と固辞したため、円谷プロは隊長をダンに変更して再度オファー。それによりダンが隊長に就任することになります(ちなみに平成の時代で森次氏はダン以外の役をやっていたりする)。つまり、今作でのダンの性格はその地球人が下敷きにあるんですね。公式設定では戦えない自分の代わりにゲンを一人前にしなければと焦っていたため厳しい態度になってしまったと設定されています(MACを信じていない部分はフォローできない模様)。 特撮面ではシリーズ初の殺陣師が参加。 前作まではウルトラマンと怪獣のスーツアクター達が演技プランを打ち合わせしてウルトラマンと怪獣の戦いを描いていました。今作からはついに殺陣師が参加したことで戦闘を監修、指導できる人物が加わり今までのシリーズよりも迫力がありそれでいて美しい戦闘を見せてくれます(ちなみに殺陣師を参加させてほしいという要望は初代の頃にもあったが、巨人と怪獣の殺陣師なんていないということで却下されてた)。 この作品以降ウルトラシリーズでは殺陣師が標準で参加するようになり、レオのスーツアクターさんも後のティガ、ダイナにおいて殺陣師として参加しています。 ちなみに、撮影が過酷だったのは特撮班も同じだったようでレオのスーツアクターさんは「円谷で1年持ったなら他なら10年は持つ」と語っています。 こうして、今までとは全く違う重くハードな展開で始まったウルトラマンレオでしたが視聴率が低迷(2年ぶり三度目)。 重すぎる展開もそうですが、ウルトラマンが敗北してしまうという展開が受け入れられなかったのです(なんか未来の時代でも同じようなことを聞いたな)。 今作においては前作が底抜けに明るい作品であったため、そのギャップも視聴率の低下につながりました。 この為、毎度お馴染みの路線変更が図られ、過酷な修行は免許皆伝となり終了。MACは隊員たちを入れ替えることで空気を一新して部隊内で誕生日パーティを開くほどの穏やかなチームに変更。従来通りの明るい話、コミカルな話なども作成されていつものウルトラマンへと路線変更していきます。 更に作品のイメージを変えるためにシリーズ初の主題歌の変更が行われます。主題歌の変更はウルトラシリーズでもそうですが、特撮作品全体を見てもなかなか珍しい事です。第1主題歌がウルトラマンレオという作品を歌った曲なのに対し、第2主題歌はヒーローとしてのレオを歌った曲となっております。使用された期間は第2の方が長いですが第1の方が好きという執筆者みたいな人も多いですね。 こうして、かつてないほどハードな作品として始まったウルトラマンレオは従来通りのウルトラマンとしてその放送を終えたのでした。 ・・・終えられたら良かったんだけどねぇ・・・。 この頃、歴史の教科書にも乗っている世界的大恐慌「オイルショック」が発生します。 正確には前作タロウの中盤辺りから徐々に物価上昇の影響が出始めていたのでレオでは当初から従来よりも低予算での制作が行われていました。1つの怪獣を2話に渡って使っていたり、レオが光線技をあまり使わないのも予算削減のためですね。 しかし、ここへ来て物価上昇は更に加速。さらなる予算の削減が求められることになりました。 そうしてさらなるテコ入れが必要となった円谷プロが下した決断。それは・・・ MAC全滅 ウルトラシリーズにおいて防衛チームとは言ってしまえば便利な存在だがいなくてもストーリーに問題はなく、それでいて基地のセット、戦闘機のミニチュア、隊員服や装備の小道具などの維持費や隊員役のギャラなどで予算を大きく消費する存在でもあるのです。 予算の削減と最終クールに向けてインパクトを出すためにMACは隊長のダンを含めゲン以外の隊員は全員殉職(これによりウルトラセブンが生死不明という状況であったがメビウスの時代にウルトラの母に救われて無事だったという設定が用意された)。MACという組織は壊滅し、ゲンはMACを脱退して民間人として戦うことになります。基地が壊滅的な打撃を受けることはウルトラシリーズでもよくあることですが、隊員が全員殉職し基地を奪われ全滅してしまうというのは後にも先にもMACだけです(このせいで最弱ネタが加速することに・・・)。 更にレギュラー陣を削るためにゲンの恋人や親友、妹分といった身近な人物も殺害されて退場するという衝撃の展開を迎えることになりました(ちなみにこの惨劇は1匹の怪獣によって引き起こされた)。 従来どおりのウルトラマンへと路線変更したレオは最終クールに来て当初のスローガンであった生きる厳しさと哀しさを鮮烈に謳う作品へと再び変わる事になったのです。 この路線変更は背景こそやむを得ない事情があるものの、作品全体を通して見れば未熟だったレオが一人前へと成長していき、大きな悲しみを乗り越えて最後は一人でも戦えるほどの戦士に成長するというレオの成長物語に大きな貢献をする結果になりました。まさに怪我の功名といったところでしょうか。 時代に翻弄されながらも一人の戦士の成長物語として完結したウルトラマンレオ。 TSUBURAYA IMAGINATIONでは全話見放題で配信中です。 生きる厳しさと哀しさを乗り越える戦士の姿。ぜひご覧ください。
余談
上述の通り過酷な修行を乗り越えながら地球の平和を守るために戦ったウルトラマンレオですが、実は現実の世界でもある少年の生命を救っていました。 当時ある小学生が学校でひどいいじめに遭い自殺を考えるほどに追い込まれていました。 そんな彼の支えとなったのがウルトラマンレオだったのです。劇中において過酷な修行に耐え成長していくゲンの姿に感銘を受けた少年は自分も空手を習い始め、心身を鍛え上げた結果いじめを克服し前を向いて生きることができたのです。 現在では空手道場を経営しているらしく、ウルトラマンレオのファンイベントで真夏さんに涙ながらに感謝の言葉を述べていった様です。 テレビの中のヒーローは現実でもヒーローなのですね。
INABA的おすすめエピソード
第3話「涙よさよなら...」 第4話「男と男の誓い」 ゲンが職員として勤めるスポーツセンターに通う梅田トオル、梅田カオルの兄妹は父親と仲良く家路に着いていた。 そんな梅田親子を謎の宇宙人が襲撃。幼い兄妹の目の前で父親は真っ二つに惨殺されてしまう。 身寄りがなくなってしまった梅田兄妹。MACの鈴木隊員はそんな兄妹の里親となり引き取ることを提案するが、鈴木隊員もまた幼い兄妹の目の前で宇宙人に惨殺されてしまう。 ダンは自らを囮とすることで星人をおびき出し、通り魔的犯行を繰り返す敵の正体がツルク星人であることを突き止める。そしてゲンに星人を倒す為の修行を課した。 しかし、ゲンが技を完成させる前にツルク星人は巨大化して東京を襲撃。居ても立っても居られなくなったゲンはレオに変身するも、両腕の刃を華麗に操り攻撃してくる敵を前になす術もなく敗北してしまう。 ツルク星人を破る技を体得させるべくダンはゲンを滝へと連れて行きこう告げるのだった。 「この滝を切れ」 通り魔的犯行を繰り返す宇宙人「ツルク星人」を中心とした2話構成のエピソード。 序盤の話でありながら幼い兄妹の前で父親が惨殺されたり、未熟なレオが宇宙人に敗北したり、滝を切れという無茶苦茶な修行をさせられたり、挫けそうになったゲンにダンの厳しい叱咤激励(名言)が飛んだりとウルトラマンレオという作品の全てが詰まっていると言っても過言ではないエピソードです。 ツルク星人による父親惨殺シーンでは人形とはいえ真っ二つにされた人間が映像に映っており現代だったらNGにされる作品ですね。 ちなみに上述しておりますが、この滝修行の収録は真冬に行われており柔道着一枚で撮影に挑んだ真夏氏は肺炎を起こしかけて高熱にうなされることになったんだとか・・・。
紹介動画
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